[情報処理学会(会長:白鳥則郎)が行政刷新会議事業仕分けについて意見表明]
社団法人情報処理学会
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平成21年11月13日に行われた行政刷新会議の事業仕分けにおいて、学術や科学技
術に関する事業についての議論が行われた。次世代スーパーコンピューティング
技術の推進を含むIT関連事業についても多くが仕分け対象とされ、実質凍結や予
算縮小の結論が相次いだ。本来短期の無駄を洗い出す事業仕分けを、学術・科学
技術関連の事業に対して適用するのは情報処理学会として大きな懸念を持つもの
である。
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行政刷新会議事業仕分けについての意見 平成平成21年11月25日
社団法人 情報処理学会
平成21年11月13日に行われた行政刷新会議の事業仕分け作業において、学術
や科学技術に関する事業についての議論が行われた。予算の効率的な使用を目
指し,無駄を排除することは当然のことであり,かつ,議論や結論に至る過程を
公開することも望ましく、事業仕分けは概ね多くの国民の支持を得ている。しか
し、本来、短期の無駄を洗い出す事業仕分けを、学術・科学技術関連の事業に
対して適用するのは、本学会として大きな懸念を持つものである。
特に今回は本学会が関係する「次世代スーパーコンピューティング技術の推進
」を含むIT関連事業についても多くが仕分け対象とされ、実質凍結や予算縮小
の結論が相次いだ。本学会は我が国の情報技術の開発・普及をリードする最も責
任のある学会として、今回の仕分け会議の議論の経緯・さらに下された結論に関
して憂慮し、以下の意見を表明する。
○学術や科学技術事業を「事業仕分け」の対象とすることを懸念する
科学技術政策については、国の基本方針に従って決められて推進されるべき
ものであり、今回のような短時間で行う「事業仕分け」にはなじまない。特に、
研究 者・専門家による十分な議論を踏まえない、短時間での早急な結論は妥当
性を欠くという懸念をもつ。これは本学会の学術領域である情報技術においても
然りで ある。
学術や科学技術の事業の評価には、研究の意義や研究内容について専門的な観
点からの議論が必須である。もちろん、経済効 果や効果的投資の議論の重要性
を否定するものではないが、科学技術関連事業は長期にわたる基礎研究や人材育
成を伴い、短期の費用対効果や目先の成果の評価 にはなじまないものも多い。
例えば、情報技術の代表的成果である商用インターネットも、ARPANETの設立か
ら20年以上米国政府機関の研究投資が行わ れ、かつ多くの参加機関による長期
の人材育成を経て、ようやく実現している。
また、専門性の高い科学技術分野に対して、必ずし も専門家ではない仕分け
人によって、我が国の科学技術の方向性が決められていくことには懸念せざるを
えない。本来、我が国の科学技術の戦略はそれを担当す る然るべき機関が各方
面の専門家との十分な討議を経た上で基本方針として設定され、かつ、その上で
それぞれの事業に関して、総合科学技術会議あるいは同等 の機関によって、国
民へのわかりやすい説明を伴いながら、評価が示されるべきである。しかしなが
ら、今回は個々の事業の選定基準はもとより、仕分け人の人 選についても基準
が示されず、議論の時間もわずかであり、妥当な結果説明を伴った結論かどうか
について疑問が残る。科学技術の事業に関する「仕分け」の結 果については、
行政刷新会議での最終的な見直しも示唆されており、わが国の科学技術の将来を
見据えた、適切な判断を期待する。
今後、情報処理技術を含む科学技術は科学技術創造立国を目指す我が国の礎に
なるものであり、長期的な視点に立った堅実な議論と政策を望みたい。
○「次世代スーパーコンピューティング技術の推進」事業、次世代スパコン・プ
ロジェクト”凍結”を深く憂慮する
11月13日に行われた行政刷新会議の事業仕分け作業においては、次世代スーパ
ーコンピュータの開発を推進する「次世代スーパーコンピューティング技術の推
進」事業が、「来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減」と結論された。
スーパーコンピュータは現代の科学技術全体において主要な位置を占める。
バイオテクノロジーやナノデバイス開発など、やがて国民生活につながる最先端
の技 術開発ではスーパーコンピュータを使ったシミュレーションが重要な手段
となっており、熾烈な開発競争が行われている中、世界の最先端を目指す当該ス
ーパー コンピュータはわが国の国際競争力を維持するのに重要なシステムであ
る。
これまで、わが国は優れた計算機開発能力を保持し、複 数の世界最高性能シ
ステムを含む最先端のスーパーコンピュータを多数開発してきた。中でも2002年
に世界最高速の性能を達成した「地球シミュレータ」は 世界に驚きを与え、そ
の性能により、人類の未来の大きな影響を与える地球環境気候変動予測をはじめ
様々な科学分野に対して大きな貢献をしてきた。この最高 性能は、その優れた
計算機開発能力を駆使したシステムの総合的な開発技術なしでは実現できなかっ
た。
スーパーコンピュータの開 発技術は情報技術の粋を集めたものである。高速
半導体プロセス、高性能プロセッサおよび広帯域光ネットワークなどのハードウ
エア関連技術だけでなく、並列 処理技術、大規模データ処理技術、大規模シス
テム構築技術、高性能科学技術計算技術などのソフトウエア技術までも含む総合
的な計算機システム技術の最先端 にあり、その研究開発は計算機科学全体の発
展に大きく貢献する。それゆえ、スーパーコンピュータはこれまで「国家基幹技
術」として、利用技術および構築技 術の両面で研究開発が推進されてきたもの
である。
今回の開発凍結は、単に当該システムの稼働時期が遅れるという単純な影響で
は すまされない。むしろ、情報技術の最先端で研究開発を行ってきた産業・大
学・研究所等の人材の確保を困難にし、わが国が保持してきたスーパーコンピュ
ータ に関する、総合的な技術及び開発能力を失わせ、情報技術全体へ大きな負
の影響を及ぼし、ひいては我が国の科学の発展に深刻な影響を与えることが憂慮
され る。また、プロジェクトが牽引してきた大規模並列計算技術及び計算科学
に関連するソフトウエアの開発の遅れは当該システムだけでなく、国内に設置さ
れてい る他のスーパーコンピュータの利用技術および計算科学の発展に悪影響
を及ぼす恐れがある。
科学技術創造立国を掲げる我が国の将 来にとって、確固たるビジョンをもっ
てスーパーコンピュータ開発を進めることは科学技術一般、さらには本学会がリ
ードする情報処理技術にとっても死活的に 重要であり、次世代スーパーコンピ
ュータ開発を迅速かつ着実に推進することが極めて重要であると考え、ここに継
続的な開発を強く訴えるものである。
以上
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情報処理学会
http://www.ipsj.or.jp
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